EaR Talk #06 Power

6  EaR Talk レポート

EaR Talkはnoiz EaRの活動の一環として開催されるトークイベントです。EaRが興味を持っているさまざまな分野のスペシャリストをゲストにお招きし、建築/テクノロジー/デザインやその周辺のトピックについて最新の知見をレクチャーしていただきます。

12月11日のゲストは森永邦彦さん。広域分野の技術や手法を取り入れたコレクションを発表し続けるブランドのクリエイションの源に迫ります。アンリアレイジは、2003年にブランド設立以来、現在までに数多くの異分野コラボレーション作品や最新の技術や手法を取り入れたコレクションを発表し続けいます。EaR Talkでは、実際にコレクションルックや生地見本を見せていただきながら、コンセプトや素材へのアプローチ方法まで、これまでのコレクションアーカイブをご紹介いただきました。

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 時間とクリエイションのパラダイムシフト

デビューコレクションとなった2006年。アンリアレイジは東京コレクションで何千もの細かいパーツから作られたパッチワークコレクション「バター」★1を発表しました。翌年2007年には無数のボタンを手刺繍で装飾したコレクション「祈り」★2を発表。これらのコレクションは、──ものづくりの過程に「時間」をかけることで「価値(=値段)」をつける── というテーマへの挑戦でもありましたが、当初は生産を含めた3名でブランドを運営しており、製作時間が足りなければビジネスとしても成立しないという壁に直面したそうです。そこで大胆にも製作の段階で手を動かす時間を削減し、形を考えることに多くの時間を使うという方針にシフトしていきました。これがのちにブランドとしてのひとつの指標になったと森永さんは振り返ります。
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右)★1.「バター」2006年S/Sコレクション 左)★2.「祈り」2007年S/Sコレクション

ズレから生まれる形の可能性

アンリアレイジが取り組んだ次なるテーマは「形の追求」でした。人の身体からは遠い立体を作り、着用した時に服が身体に寄り添わない、歪みやズレそのものがデザインになるというシリーズ★3に挑みました。「◯△□」(2009年S/S) 2010年には美の定規であるマネキンの基準を壊し、極端に縦横へ変形させたマネキンを作ることで既成概念にとらわれない、洋服の新しい可能性を探りました。「WIDESHORTSLIMLONG」(2010年A/W)★4  このほか規定外であることをテーマとして、空気を入れたり萎ませたりするシリーズ、プラスチックのブリスターパックを用いて、中と外の境界を分けるということを表現したシリーズ「SHELL」(2012年S/S)  などを発表。寸法の概念を問い直すとともに、これまでにない視点から形の可能性を見つけるといったテーマの掘り下げが行われました。

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  右)★3.「◯△□」2009年S/Sコレクション  左)★4.「WIDESHORTSLIMLONG」2010年A/Wコレクション

素材の探求

コレクション発表の場を東京からパリへと移し、現在に至るまでアンリアレイジは素材の新たな可能性を求め、これを追求していく時代へと移行します。外に行くと色が変わる、ダイヤルをひねると形が変わる、ジャガード織の布地コードを埋め込んで、フィルターとなる洋服を重ねて着用すると模様が現れるシリーズなど。ひとつの問いを突き詰めていくことで造形にしていきます。

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Power」力の可視化

2017年、9月に行われたパリコレクションでは、しわや摩擦といった外的ストレスと洋服の関係性に着目し、力を加えることで発光する独自開発のテキスタイルを使用したコレクション「Power」★5を発表しました。素材には橋やトンネルのひび割れを予測、発見するために主に建築現場で使う塗料が用いられています。ランウェイでは、服を発光させるための加圧表現はモデルに委ねられました。なかには服を脱いでしまうモデルもいたそうですが、日々の中で繰り返される何気ない行為からでも目に見えないパワーが生じていることを証明して見せました。

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上)★5.「POWER」2018年S/Sコレクション

第6回目となるEaRtalkは平日の開催にも関わらず、盛況の中イベントが行われました。ご参加者の中には、AR三兄弟の川田十夢さんをはじめTOCOLO.COMの野老朝雄さん、そのほか異分野で活躍される方々もお集まりくださり、広域視点から意見の交差するトークイベントになりました。今回はその一部を以下のリンクよりインタビュー形式でご紹介しています。

EaR Talk #06 インタビュー:森永邦彦(アンリアレイジ )×豊田啓介(noiz)

 

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森永 邦彦  アンリアレイジ

1980年、東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。バンタンデザイン研究所卒業。2003年、アンリアレイジ設立。2005年、ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。同年、06S/Sより東京コレクションに参加。2011年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2014年、15S/Sよりパリコレクションデビュー。2015年、フランス服飾開発推進委員会主催の「ANDAM fashion award」のファイナリストに選出。2016年南青山にANREALAGE AOYAMAをオープン。

 

ANREALAGE(アンリアレイジ)

2003年設立。ANREALAGEとは、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代、を意味する。日常の中にあって非現実的な日常のふとした捩れに眼を向け、見逃してしまいそうな些事からデザインの起点を抄いとる。「神は細部に宿る」という信念のもと作られた色鮮やかで細かいパッチワークや、人間の身体にとらわれない独創的なかたちの洋服、テクノロジーや新技術を積極的に用いた洋服が特徴。現在、パリコレクションで発表を行い、国内外50店舗で販売されている。

 

写真提供:ANREALAGE CO.,LTD

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(Text by NO)