松川昌平氏のおすすめ本 『基礎情報学 生命から社会へ』

西垣通『基礎情報学 生命から社会へ』2004、NTT出版

 

いきなり私事で恐縮だが、以前「設計プロセス進化論」(『設計の設計』所収、2011、INAX出版)という論考を書いた。きっと誰も気付かなかったと思うけど、実はその拙論の構造的な着想は『基礎情報学』に拠るところが大であった。

本書は全く建築について書かれているわけではないのだが、本書の骨格である生命情報/社会情報/機械情報という情報の分類を、そのまま、建築設計としてのアーキテクト/社会設計としてのソーシャル・アーキテクト/情報設計としてのITアーキテクトという拡張されたアーキテクトの職能の分類に対応づけて読み進めると、驚くほど建築情報学のための本として示唆に富んでいることがわかる。

また本書は、通常の建築本を読んでいてはほとんど触れることが出来ない、でも建築をやる上で必ず知っておかなければいけないであろう思想がテンコ盛りに登場する。チューリング、ノイマンらが確立した計算論はもちろん、ウィーナーのサイバネティクスやヴァレラ、マトゥラーナのオートポイエーシスといったシステム論、パース、ソシュール、ヤコブソン、ホフマイヤーらの記号論、そしてユクルキュルの環世界やギブソンのアフォーダンス、といった具合に縦横無尽に分野を越境していく。このような一見バラバラに見えるきらびやかな思想の星々が、「情報」というフィルターを通して星座のように関係性が紡がていく。

建築情報学というまだ見ぬ世界を航海するためには、本書のような羅針盤が必要なのではないだろうか。

 

松川昌平