緊急鼎談EaR Rectureレポート
5月27日に目黒にてEaRの「RECTURE」を開催しました。EaR RECTUREはnoiz EaRの活動の一環として開催されるレクチャーシリーズです。RECTUREではEaRが興味を持っている様々な分野のスペシャリストの方々をゲストにお招きして、建築/テクノロジー/デザインやその周辺のトピックについての最新の知見をレクチャーしていただきます。
通常は隔月で開催しているRECTUREシリーズですが、今回は緊急企画と題してアーティストの野老 朝雄さん、弁護士の水野 祐さん、建築家の松川 昌平さんに急遽お越しいただき、鼎談の場を設けさせていただきました。
型と形
単純な幾何学を利用しながらも複雑なアルゴリズムを背後に内包しているようなデザインが昨今注目されつつあります。
野老さんもそういった作品を手掛けるアーティストの一人で、「つなぐ、つなげる」をコンセプトにひし形等のシンプルな幾何学の特性を分析し利用しながら様々な文様・作品を制作されています。どの作品も一部回転を加えるといった簡単な操作を行うだけで次々と別のパターンへと変化させていくことができます。
今回の鼎談では過去に製作されたひし形を利用した立体作品お持ちいただきましたが、単純なひし形でありながら自在に変形する作品の奥深さに来場者からも驚きの声が上がっていました。
数式やアルゴリズムから導き出される形はパラメーターを少しづつ変えるだけで無数のパターンを作り出すことができます。松川さんからは、野老さんがデザインしたグラフィックを元にそのバリエーションを羅列、さらには同じルールを利用しながら3Dの図形にまで発展させた例を実際に紹介いただきました。
松川さんは最終的に表れる形状を”形”、そして背景で動いているアルゴリズムを”型”と呼び、これからのデザインではこの”型”がより重要になっていくのではないかと言います。
このような事例のひとつとして、鼎談の中ではダイナミックロゴが取り上げられました。例えばMITメディアラボのロゴのように、一定の共通点を認識できる範囲でそれぞれの人に少しづつ異なるデザインを提供することが可能となるのです。
デザインのあり方の変化に対し、著作権をはじめとしたデザインに対する法的保護も変化を求められていると水野さんは言います。
デザインにおける”型”がどこまでオープンにされ活用されていくのか、逆にそのデザインの本質を決めうる”型”がどこまで法的に守られていくのかということが今回の鼎談の大きなテーマとなりました。
幾何学は誰のもの
野老さんは自身のデザインにおいて幾何学の無数にある組み合わせの中からあるひとつの美しい形を”見つけだした”に過ぎないと言います。発見なのか創造なのかの線引きはそもそも難しい中、近年の法律では例えば遺伝子の分離は配列に特許が認められるのか、といった形でも議論がなされているといいます。
この”型”をオープンにして誰でも使えるようにすることの利点や危険性についても議論が行われました。水野さんによると、たとえばプログラムのアルゴリズム(解法)自体は著作権法上保護されないと明記されているように、”型”はアイデアまたはそれに類するもので誰かが権利的に独占できるものではないようです。”型”のオープン化は悪意を持って公開された”型”を利用し不当に権利を得る人が現れてしまうという危険性もある一方で、プログラミングにおけるオープンソースの考え方のように多くの人が利用することでそのデザインの大きな発展を促すと共に、その”型”を作り出した人の価値や権利も高めていく可能性も大いにあるのではないかとのことでした。
野老さんはいろんな人がデザインに対して様々な親(生みの親・育ての親、等々)になってほしいと言います。今回の鼎談のテーマが示唆しているように、今のところそしてこれからも幾何学は誰のものでもなく、かつみんなのものであると言えるのではないでしょうか。そんな中、各個人がデザインを我が事として盛り上げていくという流れこそが今後価値を持って行くはずです。
今回の鼎談には幅広い方々に来場いただき、有意義な意見を色々と伺うことができました。会場全体で盛り上がったシーンも数え切れないほどあり、皆でデザインを盛り上げていこうという強い意思を感じることができた会でした。何より表象に現れる”形”とその背後のアルゴリズムである”型”という考え方やその価値体系は法的にもまだまだ曖昧な部分であり、今回の鼎談が新しくかつ創造的な事例として世間に問いかけるきっかけとなれば何よりです。
通常とは少し趣の異なる鼎談という形をとった緊急企画でしたが、2時間のトークではまだまだ議論しきれなかった部分も多く、今後も定期的にこのような会をEaRとして企画していければと思います。是非ご参加ください。
(Text by WN)
講演者情報
野老 朝雄 アーティスト
幼少時より建築を学び、江頭慎に師事。2001年9月11日より「繋げる事」をテーマに紋様の制作を始め、美術、建築、デザインの境界領域で活動を続ける。 単純な幾何学原理に基づいて定規やコンパスで再現可能な紋と紋様の制作や、同様の原理を応用した立体物の設計/制作も行なっている。
Web: http://www.tokolo.com
水野 祐 弁護士
弁護士。シティライツ法律事務所代表。ArtsandLaw代表理事。Creative Commons Japan 理事。 慶應義塾大学 SFC 研究所所員。その他、FabLab Japan Network などにも所属。著作に『クリエイターのための渡世術』(共著)、 『オープンデザイン参加と共創からはじまるつくりかたの未来』(共同翻訳/執筆)、連載に『法のデザイン インターネット社会における契約、アーキテクチャの設計と協働』(Business Law Journal)などがある。
Twitter : @TasukuMizuno
松川 昌平 建築家
慶應義塾大学SFC環境情報学部准教授、000studio主宰。 1974年石川県生まれ。1998年東京理科大学工学部建築学科卒業。1999年000studio設立。 2009-11年文化庁派遣芸術家在外研修員および客員研究員としてハーバード大学GSD在籍。 2012年より慶應義塾大学SFC環境情報学部専任講師。 2014年より同准教授。共著に『設計の設計』(INAX出版、2011)。訳書に『アルゴリズミック・アーキテクチュア』(彰国社、2010)。 主な作品に《AlgorithmicSpace[Hair_salon]》(2005)など。
Web: http://000studio.com
Web: http://000lab.com