「デジタルデザインによってつながる建築と情報」

第2回EaR Rectureレポート

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3月24日に目黒にてEaRの新プロジェクト「RECTURE」を開催しました。EaR RECTUREはnoiz EaRの活動の一環として開催されるレクチャーシリーズです。隔月でEaRが興味を持っている様々な分野のスペシャリストの方々をゲストにお招きして、建築/テクノロジー/デザインやその周辺のトピックについての最新の知見をレクチャーしていただきます。

第二回のゲストレクチャラーは日建設計DDLです。DDLの編成、立ち位置、チームのディレクションなど組織について、DDLで考えるデジタルデザインとは何か、どんな仕事をしているかなどお話していただきました。

複雑な情報を解きほぐす/ルールを見つける

フランク・O・ゲーリーの「情報をコントロールすればやりたいことができる」という言葉に代表されるように、膨大な量の情報をいかに高解像度で扱えるかが今日の建築設計において大きな課題となっています。デジタルとは「コンピュータで扱える情報の形」と広義に捉えられており、コンピュータと情報が繋がることでソリューションを起こす行為をデジタルデザイン(もしくはコンピュテーショナルデザイン)と我々は呼んでいます。日建設計DDLにおけるデジタルデザインとは、コンピュータを駆使し、膨大な量の情報処理や複雑な計算を行って、多様なソリューションを設計者に提供することです。デジタルデザインは必ずしもコンピュータが自動で形態を生成してくれるというものではなく、建築に関わる複雑な情報の網を解きほぐしていく過程であり、形態が持つそれ自体の本質・ルールを解き明かしていくことであると考えています。

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今日、世界の設計事務所の多くは、情報を高度に扱う専門チームを擁しています(Frank Gehry + Gehry TechnologiesFoster+Partners + SMGnbbj + DCTBIG + IDEAS etc.)。日建設計でも同様にデジタルデザインを専門とするチーム、DDL(Digital Design Lab)を2012年に開設し、3D・構造・環境・最適化・BIMなど多様な側面から設計者をサポートしています。現在、DDLは16名程のメンバーで構成されており、各メンバーはそれぞれの専門性(Rhinoceros+Grasshopperをベースに3Dモデリングや最適化、環境シミュレーション、BIM等のソフトウェア)を活かして活動しています。

DDLの主な活動内容は、以下の3項目にまとめられます。
①実務プロジェクト
②DDL主体の活動
(ソフトウェア開発、マテリアル開発、設計プロセスの提案、ファブリケーション研究)
③個人のスキルアップ
(メンバーが現在興味を持っているトピックを2~4人でディベロップし月1回間隔で全員と内容を共有する)

DDLはラボ(研究室)という位置づけである為、実務ベースの仕事だけではなく実験的な試みも日常的に行っています。しかしこの体制は設立当初から確立されていたわけではありませんでした。設立当初は個人ベースでプロジェクトに関わっていることが多くなっていましたが、昨年度から個人個人の蓄積をチームに還元できるような仕組みへと少しずつ変えていっています。

設計者/環境・人/複雑な条件/新しい可能性と向き合う

実務プロジェクトではDDLは設計者から寄せられる様々な要求に対して、より工学的なアプローチで解決方法を提示し、設計者をサポートする体制を取っています。その際に出てくる様々な要望に応える為に、共通言語となる3Dモデルが設計者とのコミュニケーションに有効なツールとなります。実務プロジェクトでは「モデル作成」→「チェック」→「フィードバック」の作業を繰り返しますが、DDLではこのフローをコンピュータを用いて、いかに早く効率的に行えるかを重要な課題の一つとしています。

デジタルツールは設計者との対話の入り口であり、手作業で表現しきれない設計について質の高い検討方法を提案するのに有効です。DDLでは、デジタルツールを設計の初期から導入することで設計の進捗に合わせてモデルの定義も深化していくアジャイル的スタンスを採用しています(設計者にはGrasshopperのパラメータだけを触ってもらい、そこから打合せを重ねる過程でパラメータの置き方の最適化の検討の繰り返しや、Rhinocerosの2D作図のみでリアルタイムで立体に起こせるようなコンポーネントを用意する等)。この時予め頻繁に使用するプロセスはDDL内で単純なツールにしておき、早くレスポンスを返せるようにしています。DDL側がデザインの最終決定をするのではなく、単純なパラメータだけを用意し設計者自身がツールに触れて最終決定をしてもらうことも非常に特徴的なプロセスとして挙げられます。

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これまでのプロセスでは、デザインを決めてからシミュレーションをして設計の効果を確認することが頻繁に行われていましたが、最近ではデジタル・シミュレーションを設計の初期から導入し、デザインとシミュレーションをシームレスに進めることで、これまでに比べて、建築が周囲に及ぼす影響などを把握しながら設計ができるようになりました。

ノウハウの蓄積とオープンソース化
日建設計は世界でも有数の設計者数を有した設計事務所の一つです。デジタルツールの効率化・最適化の利用だけに留まらず、そのスケールメリットを活かし膨大な数の設計者の手癖を重ねあわせ、これまで個人が記憶していた設計者の経験をコンピュータに記録することで、新しい設計方法を生み出せないかと考えています。コンペなどのノウハウを個人の所有に留まらずに外部化し、AIのようなデバイスによってフィードフォワードすることが今後可能になっていくでしょう。ただし設計という行為には共通言語が存在しないため、データの二次利用が非常に難しくログがとりにくいという側面を解決しなければなりません。

建築設計においても科学分野と同様に、既往研究の分析や引用の重要性について認識されてもいいのではないかと考えています。その試みの一つとして建築デザインの系譜を樹形図状にプロットし、評価されるモデルと類似するモデルを同時に体系的に評価するシステムを実験的に作成しました。この実験ではコピーすることを「悪」とせずコピーされることを「善」であることを示唆していますが、こうした逆転の発想が、デジタル時代の今だからこそ積極的に求められるのではないでしょうか。
また先人が蓄えてきたノウハウの恩恵を享受するだけでなく、自分達の知見も社会全体に還元していくため、openDDLというサイトを開設しました。よりオープンな情報にアクセスできるようになり、アクセスする側にもされる側にも双方に良い影響を与えられるようになったら良いと考えています。これまでのDDLは中央管理的なシステムを中心に成り立っていましたが、今後は組織の外の様々な専門家とも連携して、デザインの権利や設計プロセスなどの諸問題をクリアしながら、分散したゆるやかな組織体系をつくっていけないかと考えています。

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今回、DDLが大々的に行う初めての公開レクチャーということもあり、非常に多くの方に参加していただきました。レクチャー後も多くの質問が寄せられ、参加者の皆さんがデジタルデザインに対して非常に興味を持っていることが伺えました。

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RECTUREでは今後も様々な分野のスペシャリストをお呼びし、建築とその周辺分野に関してのトークを頂く予定です。また今回の内容を更に深められる機会を設けられればと思います。是非ご参加ください。

(Text by MI)

 
講演者情報
日建設計DDL / Digital Design Lab

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2012年設立。ICTを駆使したリサーチやデザインを行うことを目的として、設計部門に設立。
先進的な技術、手法を建築の実務の中で利用可能にすることを目指して、プロジェクト内での実践と実験の両輪を伴いながら活動中。
http://openddl.com/