「建築/コンピュテーショナルデザイン/法」

第1回EaR Rectureレポート

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1月21日に目黒にてEaRの新プロジェクト「RECTURE」を開催しました。毎回EaRが興味を持っているモノ・コトに関わっている方をお招きしてRECRIATIONxLECTUREという文字通りざっくばらんにお話いただくレクチャーシリーズです。

第一回目のゲストは様々なクリエイティブな活動のサポートを行っている弁護士の水野祐さん。近年デザインの現場においてコンピューターによる創作があたり前となり、さらにはコンピューター自身が創作することさえ可能になってきた時代にあって、建築をはじめとした創作物全般の法的権利はどう考えていけばいいのかお話いただきました。

著作物性と「necessary arrangement」

AIマシーンラーニング等が現れコンピューターによって自動的に生成された創作物が爆発的に増える中、それらをどのように法的に扱うのかが問題となってきています。例えば英国では著作権法において「Computer Generated Works」に著作物性を認めており、その権利は「necessary arrangement」をした者に帰属すると規定しています。ここでの「necessary arrangement」についてどこからどこまでが人が「不可欠なアレンジをした」と言えるのか、コンピューターを利用した創作があたり前になっている現代において創作的寄与と認められる境界が曖昧になってきています。例えばカメラのセッティングのみを行うカメラマンやPCを使ってデザインを行うデザイナーとGoogle Deep Dreamにより作成された絵画との違いはどこにあるのだろうか、と水野さんはいいます。

猿による自撮りに著作性を認めるか世界を巻き込んで大きな議論が展開された“Monkey Selfie”。意匠権との棲み分けなしに実用品にも著作物性を認めるとした判決が出て知財関係者に衝撃を与えた子供用の椅子“Tripp Trapp”。著作性を取り巻く状況は、既成の枠組みを超えた新しい考え方を必要としています。

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(この枠組の変化に関しては水野さんが委員会として参加している「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」という総務省の活動の報告書に詳しくまとめられています。)

建築物における実用性と創作性

建築の場合はどうなのでしょうか。建築に関しては実用性があるものとみなされる場合がほとんどで、ごく一部の美術性を有する建築物以外には著作権が認められてきませんでした。

最近の新国立競技場の再コンペを巡る一連の問題についても、建築の著作権を考えさせられる非常に重要な例です。この件に関しては水野さんがご自身のホームページ上でも分析しています。

また、アルゴリズミックデザインやパラメトリックデザインと呼ばれる、形を生成するルールに重きを置いた設計手法が建築においても話題なってきていますが、例えば見た目は違うけれど同じアルゴリズムで作られた2つのデザインは著作権を侵害しあうのでしょうか。または、見た目は同じだけれど、背後にある設計の過程(アルゴリズム)は違うという場合はどうなのでしょうか。特に前者においては、アルゴリズムやプロセスの創出にデザインの価値がシフトしてきつつある現代においては非常にデリケートな問題です。にも関わらず3DCADデータやBIMデータ等に関する著作権的な分析や法的な整備はあまり進んでいないと水野さんはいいます。

特に建築のファサードなどは直接見た目に関係しているため盗用や剽窃の問題が生まれやすく、さらにアルゴリズミックデザインが最も応用されている部分でもあるため、今後様々な議論が巻き起こると予想されます。ファサードの様に完全に装飾的なものとして実用部分と切り離せるケースがある場合だけでなく、構造上の工夫がそのまま意匠に現れているような建築物も多く存在します。構造や機能、レイアウトといった実用的なものが意匠と不可分なものと判断されれば、今後著作物性を認められる可能性もあるとのこと。

これからコンピューターを使った創作がより身近になり、最終的に同じに見える形状やデザインが簡単に生まれうる近い将来において、意匠的な違いや設計思想を具体的に説明する努力が必要であると水野さんは指摘します。

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設計者の立場とはまた違う視点でのデザインの解釈についての話は非常に刺激的で、著作権の問題などはいつ当事者になってもおかしくないということもあり、レクチャー後も会場から沢山の質問が出され、盛んな議論が行われました。

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RECTUREでは今後も様々な分野のスペシャリストをお呼びし、建築とその周辺分野に関してのトークを頂く予定です。また再度水野さんにお越しいただき、対談といった形でさらに掘り下げた話を頂く機会も企画中です。
是非ご参加ください。

 

講演者情報

mizuno_01水野 祐|Tasuku MIZUNO

弁護士。シティライツ法律事務所代表。ArtsandLaw代表理事。Creative Commons Japan 理事。慶應義塾大学 SFC 研究所所員。その他、FabLab Japan Network などにも所属。著作に『クリエイターのための渡世術』(共著)、『オープン デザイン参加と共創からはじまるつくりかたの未来』(共同翻訳・執筆)、連載に『法 のデザイン インターネット社会における契約、アーキテクチャの設計と協働』(Business Law Journal)などがある。
Twitter : @TasukuMizuno
Web : http://citylights-lawoffice.tumblr.com

本レクチャーではスライドの代わりにGoogleドキュメントが使用されました。このドキュメントはレクチャー後の現在でも公開されており、レクチャー内で紹介された事例のリンク等を確認頂けます。