EaR Talk #06 インタビュー:森永邦彦(アンリアレイジ )×豊田啓介(noiz)

2017年12月11日に開催された第6回、EaRtalkでのインタビューを一部ご紹介します。

イベント開催当日は平日の開催にも関わらず、盛況の中イベントが行われました。ご参加者の中には、AR三兄弟の川田十夢さんをはじめTOCOLO.COMの野老朝雄さん、そのほか異分野で活躍される方々もお集まりくださり、広域視点から意見の交差するトークイベントになりました。

 森永邦彦さん (以下、M)× noiz 豊田啓介  (以下、T)

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T:リサーチやテーマを決めるまでにはどのくらいの時間を費やすのですが?

M:うーん。それがファッションになるかはわからないですけれど、その方向で探そうと決めるとそれほど時間はかかりません。「Power」★1でいうと、もともとは力による変形に興味を持ったのが始まりで、これをどうファッションに落とし込むことができるかということを考えていたのですが。テーマは後になって決まりました。

T:たとえば建築だと10年後のために都市計画からはじめて設計して見積もりを出して、ととにかく段取りが多いのですが去年「ROLL」★2で関わらせていただいて、スピード感の違いに驚きました。

M:本当にそうですね。ファッションの常識として麻痺している時間の感覚はありますね。

T:ただテーマが決定した後に、枝分かれして広がっていくスピード感覚にも驚きました。ほかのファッションブランドもこんな風にひとつのテーマを純化、分解して取り組むものなのでしょうか。

M:コンセプトやテーマって、ファッションにおいてはこれまでに比べると求められなくなってきていると思います。ただ、僕はそのコンセプトやテーマがシーズン毎にコレクション発表をやることの醍醐味だと思っていて、どの視点からみてどう実現させるかという実験がすごく好きなので、まずはコンセプトありきみたいなところはあります。

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上)★2.「ROLL」2017年F/Wコレクション 

T :AR三兄弟の川田さんとやった時★3はなぜARを使おうと思われたのですか?

M:ひとつ前のコレクション「ノイズ」ではアナログな仕組みによって何かのきっかけで見えたり感じられるということに挑戦しました。このコレクションをきっかけに「洋服」×「情報」の関係に可能性を感じて引き続き何かできないかなと思って川田さんにご連絡をしました。

T: 情報といっても単純に記号としての情報に留まらない、 ”意味の問い” みたいな本質的な掘り返しをされているようにも感じられます。普段どうやって新しいテクノロジーや素材を発見しているのですか。

M:僕らがファッションでできることとできないことの境界はあるので、領域をどう超えていくかみたいな点が一つの糸口になったりもします。

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上)★3.「SILENCE」2017年S/Sコレクション

T:アンリアレイジのアイデンティティとはどのようなものでしょうか。

M:シンプルなことでいいのですが、何かを否定するとか、何かをなかったことにするとか、一本線を引くだけで日常と非日常に別れてしまうような体験ができないかなとは思っていて。既に見たことのあるものでもいいと思うのですが、視点をかえるだけで価値が揺らいでしまうようなものが好きです。

T: 森永さんが問いを立てたい対象はファッションそのものということでしょうか。表現の先はファッションでなくてもいいのでしょうか、例えばファッションであれば「着れなくもいい」みたいな視点ってあるのでしょうか。

M:いえ。洋服です。洋服で表現したいです。表現の形として着れるに越したことはありませんが、結果として着られなくなってしまうことは結構多いです(笑)行けるところまで行って限界を超えて、結局戻ってくるみたいなこともよくありますし。自分でもコントロールできない。

T:アイデアを探索するにあたってここ最近は、テクノロジーを多様されているようなのですが、「ここを変えたい」みたいなところから技術を探すのでしょうか。反対に最新の技術から着想を得ることもあるのでしょうか。

M:「Power」★1の時は、ものが壊れる時に発生する「破壊発光」という現象に注目して、電気を使わない発光現象の中にはどんなものがあるんだろうっていう疑問がきっかけになって広がっていきました。自分が取り組みたいテーマって幾つかあって、今は現実的にできないけれど、「兆し」を感じたそのさきに「技術」があるという時と、ぼんやりしたテーマみたいなのが全く関係ない分野の技術と合わせてみたら何が生まれるのか、みたいなところから、新しいものが生まれることも両方あります。

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上)★1.「POWER」 2018年S/Sコレクション

T:マス向けかどうかという違いはあると思いますが、新しいテクノロジーの活用という意味においてZOZOSUITのようなものに関してはどのように感じられていますか。

写真提供:株式会社スタートトゥデイ

写真提供:株式会社スタートトゥデイ

M:僕らとはちがう市場ですごく価値のあることだと思いました。サイズの概念をなくす、S,M,Lというサイズの基準から脱却する兆しが見えるし、すごく可能性があると思います。ただ僕らがやっている、「ファッション」では身体にフィットすることに価値を置いている訳ではないのでそこがマス向けの「アパレル」との大きな違いだとは思います。

T:ファッションが身体の一部になるような境界が曖昧になるようなこと例えば、身につけていなくても着ることができなくてもいい、実在していなくてもいい、みたいな感覚はお持ちですか。ファッションの境界はどこにあると思いますか?

M:サイズとしての境界は持っています。着ることができるかどうかという意味ではそれが境界です。ただ、人がいる場所がどんどん変わっていているのは確かです。街に出かけて行ってみたりみてもらえていた個性をオンラインで表現できるようになった。たとえ現実とのギャップがあったとしても、オンライン上の個性が別に存在していたり。オンライン上では現実ではありえない造形表現も可能です。そこはそこで、全然違うものとしていいとは思っています。「ファッショナブルな」という意味では表現方法はいくらでもあるとは思います。

 

T:企業とのコラボレーションだったりプロダクトデザインだったりと、いわゆる出口がファッションでないものにも戦略的に取り組まれているようなのですが、このあたりをお聞かせください。

M:コラボレーション今年は積極的にやろうと思っています。ただ、多くの人が使ったり共有するってことは、ファッションの対極にあるとは思っています。表現の出口として「ファッション」として降りていくのではなくて、ブランドのコンセプトが降りていくということはありうるんじゃないかなと思っています。

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ここで、今回のEaR Talkにご参加いただいていた、TOCOLOCOM.の野老朝雄さんより森永さんへの質問とー これまでの先人が築き上げてきたように後に振り返った時に、いろんな才能やデザインに溢れた2020年だったなと思えるような、次の世代に憧れられるような、かっこいい未来を作りましょう、という熱いメッセージが送られ会場から拍手が湧きました。

 

M:憧れの対象があることは本当に大事なことです。僕の原動力はいつも憧れです。世界に、ファッションにこれまでなかった価値観に対して日本の美意識で戦ってきた方はとても多くて、そういうものを見て僕らが追いかけるきっかけになっているので、もともと日本のファッションはものすごく強いと思うんです。

KT:森永さんはファッションデザイナーとして異分野や企業とコラボしながらエッジを残すみたいなことをやっていくパイオニアだと思います。成功事例を残していくとこにすごく価値がありますね。

M:僕は所有するということをファッションの醍醐味だと信じてきたけれど、「借りるだけで十分」みたいな世代が出てきたり、洋服が大量に売れない時代ということは受け止めなくてはいけない。それでもきちんと続けていくデザイナーも、そうでない道も作っていかなきゃいけないというタイプのデザイナーも両方いなくてはいけない思っています。そうでないとこの後の世代にファッションデザイナーになりたいという子たちが出てこなくなってしまうと思うんです。

パリコレに出て、パリでどのくらい商品を買ってをもらえるかって今の二十歳くらいの子たちにとって価値ではなくなってきてしまっている。だけど挑戦してみないとわからない価値もすごくあるし、それをやらなきゃなと思って僕らはどんどん発表していきたいと思っています。

K:素晴らしいです。どんなジャンルでもやっていかなくてはいけないことですね。ありがとうございました。

 

 

 EaR Talk #06 ゲストスピーカー

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森永 邦彦  アンリアレイジ

1980年、東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。バンタンデザイン研究所卒業。2003年、アンリアレイジ設立。2005年、ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。同年、06S/Sより東京コレクションに参加。2011年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2014年、15S/Sよりパリコレクションデビュー。2015年、フランス服飾開発推進委員会主催の「ANDAM fashion award」のファイナリストに選出。2016年南青山にANREALAGE AOYAMAをオープン。

 ANREALAGE(アンリアレイジ)

2003年設立。ANREALAGEとは、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代、を意味する。日常の中にあって非現実的な日常のふとした捩れに眼を向け、見逃してしまいそうな些事からデザインの起点を抄いとる。「神は細部に宿る」という信念のもと作られた色鮮やかで細かいパッチワークや、人間の身体にとらわれない独創的なかたちの洋服、テクノロジーや新技術を積極的に用いた洋服が特徴。現在、パリコレクションで発表を行い、国内外50店舗で販売されている。

 

写真提供:   ANREALAGE CO.,LTD

クレジットのない写真はすべてnoiz

(Text by NO)