「今必要な建築の考え方」

第3回EaR Rectureレポート

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5月20日に目黒にてEaRの「RECTURE」を開催しました。EaR RECTUREはnoiz EaRの活動の一環として開催されるレクチャーシリーズです。隔月でEaRが興味を持っている様々な分野のスペシャリストの方々をゲストにお招きして、建築/テクノロジー/デザインやその周辺のトピックについての最新の知見をレクチャーしていただきます。

第三回のゲストレクチャラーはRhizomatiks立ち上げメンバー(社長)で最近Rhizomatiks Architectureを立ち上げた齋藤精一さんです。Rhizomatiks Architectureとはどのような組織なのか、Rhizomatiks内での立ち位置やプロジェクト、組織の今後の展開、ビジョンなどお話をして頂きました。

建築は想像より遅かった

最先端テクノロジーを駆使した作品を数多く発表しているRhizomatiksを設立された齋藤さんのバックグラウンドにあるのは建築です。東京理科大学、コロンビア大学の建築学生時代にはコンピュータを使用した建築表現として、3Dプリンタ、3Dモデリングソフト、アルゴリズム建築、変形学を研究対象としていました。その中でも特に変形学に興味があり、建築の形が変わるのが1秒だったらどうなるのか、建築が生きていたらどうなるのか等、建築の時間と形の関係について考察を深めていましたが、「私の考える建築は建築の領域をはみ出していた」、「建築は想像より遅かった」と感じ、建築という分野に固執する必要性を感じなくなり広告代理店へ転職します。そしてより早い表現としてアート作品を制作するようになる中で、アート作品を制作しつつもマネタイズも出来る会社としてArt+Commercialの2本柱のRhizomatiksを設立しました。

齋藤さんは世界を見る際には常に「HACK」つまり疑ってかかることを念頭に置いているといいます。社会のシステム、運営形態など常識とされていることも含めて見ているものはすべてボタンを掛け違えていると見ると、実は新しくやれることはたくさんあります。また、現代のテクノロジーは昔の人の想像以上に速いスピードで進化しており、多様な分野の知識を総合的に用い、今いる人の判断でアップデートし続けることが必要となります。建築においては建築の図面を引けるスキル以外の他の分野のスキル、例えばセンサーからのデータの取得、人体データ、カメラトラッキングの使用等を前提にもう一度建築をとらえ直すと建築にもっと違うことが出来るのではないかと、ワイドな目を持って世界を見る必要性を感じRhizomatiks Architectureを設立したと、その意義を語りました。

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建築の即時性

建築は考えてからものが出来きるまで時間がかかるものです。しかし、KDDIの「au 驚きを、常識に。FULL CONTROL TOKYO」のプロジェクトを通して、メディアを使った建築表現で建築の即時性を出せる可能性があるのではないかと気づいたといいます。「磯崎新/都市ソラリス展」では建築という文脈の中で一瞬にして思っていることが形になる実験をされています。そこでは、脳波のデータを所得し、そのデータを直接形に翻訳し、建築の即時性を引き出しています。また、”The Museum of Me”のプロジェクトでは、Web コンテンツではあるが美術館への来客者の体験をパーソナライズするように建築が反応する建築の即時性を引き出す可能性を提示しています。齋藤さんはテクノロジーを駆使すれば同様の試みは実際の建築でも出来ると考えているといいます。

文化はつくるものではなくうまれてくるもの

さらに、コンテンツを考えたときに、テクノロジーと建築の組み合わせによりもっといろいろなことが出来るのではないかといいます。「仙台市地下鉄東西線WE」プロジェクトでは、地域のコミニュケーションの場所性を重要視し、地域に根ざしたメディアを通してテクノロジーを使って地域がどうかわっていくか、参加型のコミュニケーションの方法をデザインされています。テクノロジーを使っても文化は出来ない、文化はつくるものではなくうまれてくるものです。

齋藤さんは建築におけるテクノロジーはあくまでもツールであって万能のものではないと語ります。誰もがSuicaを使ったり、グーグルで気軽に検索したりと知らないうちにテクノロジーを使っていますが、あくまでもインターフェースは人間であり、その背後にテクノロジーがあるという理解が建築、都市、社会という中では大事なのだといいます。少し前には考えられなかったレベルでテクノロジーが社会に浸透してきている現代では、テクノロジーを使用するのは当たり前となっており、人と人との繋がり、コミュニケーション、運営方法等、人にしか出来ないことをどうデザインするかが重要になってきます。

 

今回、非常に多くの方に参加していただき最先端デジタル表現を数多く発表されているRhizomatiksが設立したArchitecture部門が注目されていることが伺えました。テクノロジーが社会に浸透してきている現代だからこそ、人にしか出来ないことをどうデザインしていくかが重要になっていくのではないでしょうか。

RECTUREでは今後も様々な分野のスペシャリストをお呼びし、建築とその周辺分野に関してのトークを頂く予定です。また今回の内容を更に深められる機会を設けられればと思います。是非ご参加ください。

(Text by HO)


講演者情報

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齋藤精一

Creative Director/Technical Director : Rhizomatiks

1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。 その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。 その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。 建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。 2009年-2014年国内外の広告賞にて多数受賞。現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。 2013年、2016年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。 2015年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015、2016審査員。